第百二十五回 中山ふれあいサロン「歴史講座」

第百二十五回 中山ふれあいサロン「歴史講座」
平成30年3月12日
瀧  義 隆

平成30年NHK大河ドラマ「西郷(せご)どん」に因んでメインテーマ「明治という新時代の創設について」「薩摩藩の武士階級」について

はじめに
薩摩藩は、江戸時代の各大名の内でも、トップクラスの位置にあり、一位が加賀金沢の前田家の百二十万石、二位が薩摩鹿児島の島津家が七十二万九千石、三位が陸奥仙台の伊達家の六十二万石であるから、それぞれが大大名であったのである。従って、薩摩藩の領地も広大であると共に、その領内支配には複雑な組織機構があり、多くの家臣達によって藩政が成り立っていたのである。

そこで、今回の「歴史講座」では、薩摩藩の藩政を担った職務や役職について目を向けてみることとしたい。

1. 「格式と職分」について

薩摩藩の武士の人口は、宝暦六年(1756)には、
鹿児島衆(上級武士)・・・・・・・ 3,685人
郷士(下級武士)・・・・・・・・・20,297人
このように、薩摩藩は多数の武士団を抱えていた。
この武士達は、「格式」上では、大きく分けて、「大身分(上士)」と「平士(へいし)・下士(かし)」とに二分化されている。文政年間(1820年代)頃の武士階級の詳細を調べてみると、

「大身分(上士)」と称される家格

「大身分(上士)」とは上級武士のことで、実戦の時には騎馬
武者となる身分の家柄である。

●「一門家」・・知行高が万石以上で、島津本家の次男坊か準次男坊の家に限られていて、四家であった。島津本家で相続人が途絶えた時には、この「一門家」の中から次の領主を出す仕組みとなっていて、徳川本家の「御三家(水戸・尾張・紀州)」と同じようなものである。
「加治木(かじき)島津家」
・・大隅加治木を領地とする領主で、一万七千石を領していた。
「垂水(たるみず)島津家」
・・大隅垂水を領地とする領主で、一万八千石を領していた。
「重富(しげとみ)島津家」
・・大隅重富を領地とする領主で、一万四千石を領していた。
「今和泉(いまいずみ)島津家」
・・薩摩今和泉を領地とする領主で、一万五千石を領していた。(篤姫の実家)
●「一所持(いっしょもち)」
・・・私領主かこれに準ずる家格の家柄で、三十家があった。私領主とは、本家以外に城を構えている領主である。
●「一所持格(いっしょもちかく)」
・・・上記の「一所持」に準ずる家格の家柄で、十三家があった。上記と同様に、外城を構えている家柄のこと。
●「寄合(よりあい)」
・・・「寄合」は、「與頭(くみがしら)」や「番頭(ばんがしら)に任じられる家柄で、「一所持」の次男坊や三男坊が立てた家柄で、十九家があった。
●「寄合並(よりあいなみ)」
・・・家柄は、「寄合」に準ずるもので、五家があった。

「平士(下士)」と称される家格

「平士(下士)」とは、「郷士(ごうし)」とも称される、下級武士のことである。
●「無格(むかく)」
・・・島津本家の流れをくむ家柄ではあるものの、理由があって本家支流を辞退した家柄のことで、二家があった。
●「小番(こばん)」
・・・「御馬廻(おうままわり)」のことで、領主の騎乗する馬に従属する身分で、実戦の時には乗馬が許され、約七百六十家があった。
●「新番(しんばん)」
・・・正徳三年(1713)に新しく設置された家格で約二十四家があった。
●「御小姓與(組)(おこしょうぐみ)」
・・・他の藩では「徒歩組」と称される下級武士のことで、約三千家があった。
●「大番格(おおばんかく)」
・・・士分に準ずる身分の者で、与力・足軽・私領士(陪臣)のことで、詳細は不明である。

2.「役座(やくざ)と役職」について

薩摩藩の武士階級には、大藩であるが故に多くの役職があり、複雑な組織形態を構成しているので、その実態に目を向けてみたい。

「役座」について

「役座」の「座」とは、本来、「場所」・「立場」を意味するものであり、「役座」は「役所」や「役職」を指す言葉となる。
●「表方支配の役座」
「表方」とは、藩主が政務を執ったり、儀式を執り行う場所を指し、その大事な場所を支配する重職の者を言う。
大身分触役所・・「家老座與所」と称された役所で、最上級の家臣が着任する部局である。
大目付座・・・・城内での儀礼・訴訟・諸士分限等を管轄する部局。
大番頭座・・・・江戸時代では、城の警備を担当する部局のことで、合戦の時には「大番頭」という指揮官を意味する。
寺社奉行所・・・領内の寺院や神社の領地の管轄を行う部局である。
当番頭詰所・・・「宿り番」という宿直の役人が控える部
局である。

六與(ろっくみ)触役所
・・・「六與」は、霧島地区を称していた地名で、その地区を管理する役所のこと。
御用人座・・・・藩主の用事を家中に伝達したりする、庶務を司る部局である。
町奉行所・・・・現在の警察・裁判所・消防署等の業務を担当する部局である。
江戸・京都・大坂各留守居
・・・・・「留守居」とは、別名、「城使(しろづかい)」とも称されるもので、藩の外交官の役目を果たす部局である。
御兵具所・・・・実戦の為の武器を管理・修理・整備している部局である。
御使番役所・・・本来、「御使番」とは戦場での伝令や監察・使者を担当していたが、江戸時代に入って、「奥」と「表」との連絡役と変化したものである。
長崎御付人・・・長崎に派遣された「留守居格」の重職である。
道奉行所・・・・領内の街道の修復・整備を担当する部局である。
御目付役所・・・「足軽」や「徒歩」等の軽輩の者達を監督・監視する部局である。
御裁許方・・・ 藩内の様々な紛争を調査・裁断する部局である。
御祈念(ごきねん)方
・・・・元来は、「祈念奉行」という存在があったが、僧侶や神職達との取り次ぎをする役職と変化した部局である。宗門改役所・・キリシタン(キリスト教徒)を取締・摘発をする部局である。
異国船掛・・・外国から渡来する外国船の出没を監視する部局である。
長島・甑島(こしきじま)各移地頭
・・・・「地頭」とは、「代官」と同じ意味で、長島と甑島を管理して、年貢の徴収等を行っていた。
琉球在番・・・寛永五年(1628)に設置された部局で、琉球支配を専門とし、貿易の管理を主とする公務を果たしていた。

●「御勝手方支配の役座」
「御勝手方」とは、藩の財政を司る部局全般を称するものである。
御勘定所・・・藩の全財政管理を担当し、領民からの年貢徴収や、藩の財政の出納を担当としていた。
御舟手・・・・元々は、朝鮮貿易の海賊を先祖とする集団で、藩の水軍を担当していた。
御作事方・・・藩で管理する諸建物の新築や修理を担当する部局で、普請方とは異なるものである。
高奉行所・・・元和五年(1619)に、薩摩藩独自に設置された部局で、諸外城の石高の出入差引の管理をしていた。
物奉行所・・・他藩では、「材木奉行所」と称されるもので、領内の全ての材木を調達することを担当していた。
山奉行所・・・領内の山林・原野の管理を専門とする部局である。
郡方(こおりがた)・・・・・「代官」の上位者で、年貢・戸口・検断(警察・裁判)等を行っていた。
金山方・・・・他藩では、「金山衆」のことで、本来は金鉱山の採掘を専門とする部局であるが、通常は、その技術を生かして、用水工事を担当していた。
御細工所・・・藩内の手工業者の管理を行う部局で、特に「薩摩切子(さつまきりこ)」の製品流出を厳重に取り締まっていた。
屋久島方・・ 元々は、「屋久島代官」と称された役職で、屋久島の納税等を管理していた。
御代官所・・・「勘定奉行」の直接配下にあって、検地・巡察・徴収等の重要な役割をしていた。
御台所(おだいどころ)」・・・藩主の食事の調理・配膳等をする。
御春屋・・・・味噌・醤油・酢等の調味料を集荷・管理する部局である。
徳之島・喜界島・大島・沖永良部島各代官・・・・徳之島・喜界島・大島・沖永良部島を管理・統括する役職である。

●「御側支配の役座」
「御側」とは、藩主の近辺に仕える人達のことで、「近習(きんじゅう)」や「腰元」達をも意味する場合もあるが、「御側支配」はその者達の責任者である。
御側御用人座・・・藩主の御用を務める部局で、「物頭用人」等とも称されることがあった。
御用部屋・・・藩政を処理する重職達が詰める所で、重要な会議もここで開いていた。
御納戸・・・・家臣達に下される品物を購入・保管している部局のこと。
御広敷・・・・藩主の奥方様達の暮らす「奥」を管理・警備する部局。
造士館・・・・安永二年(1773)に建設された「宣成殿」が「造士館」の始まりで、藩士達を教育する部局である。
御記録所・・・訴訟事項を処理して、裁判所の機能と記録をする部局である。
御供目付・・・藩主が外出する時に「お供」をする者達を監督する責任者のこと。
御祐筆・・・・藩主の出す文書を執筆し、書記をする部局である。
御鳥見役所・・藩主が鷹狩りする「鷹」を飼育・管理する部局である。
御薬園方・・・様々な薬草の栽培と管理・保管をする部局である。
御庭方・・・・ 本来は、城内の庭を管理する役目であるが、後に藩主の御用を聞いたり、様々な情報を提供する役目ともなった。西郷隆盛が出世するチャンスを得たのが、この役目である。
尾畔(おあぜ)方・・・・薩摩藩の別邸の「尾畔屋敷」に詰めている部局である。
御側廻・・・・藩主の身辺を世話する一部局である。(詳細不明)
御鳥方・・・・鳥籠(とりかご)で飼われている小鳥の飼育・管理を専門とする部局である。明時館・・・・島津重豪(しげひで)が建てた、「暦(れき)」と「天文学」の研究所である。
御近習通・・・藩主の身辺を世話する一部局である。
(詳細不明)

「若年寄支配」

「若年寄」とは、城代家老等に次ぐ重職で、諸役人を支配・監督をしていた。
誓詞方・・・ 埼玉県立熊谷図書館に調査依頼をしたが、この役については、全く不明であった。
御鷹方・・・・藩主がリクレーションの一つとして行う、「放鷹(ほうよう)」の「鷹(たか)」を飼育・管理する係である。
御能方・・・・「能楽(のうがく)」を演じる為に、日常から「能」の鍛練をしている係である。
御厩方・・・・藩主の乗る馬を飼育・調教を担当している係である。
御数寄屋方・・城内で、茶礼や茶器の管理等を担当し、接客の時には城内の案内役も務めた。

「役職」

●藩主が直接指示する役職
御城代・・・・藩主が出陣や参勤交代等で城を留守にする時は、藩主の代理として政務を担当する最重職の役職である。
御家老・・・・江戸・国元にも「家老職」があるが、藩の政務を担当する人物で、国元では「城代職」と「家老職」を兼務する場合もあった。
御側詰・・・・藩主の身辺に仕えて、細部にわたって藩主の日常の世話をしていた。
若年寄・・・・前述

●家老が直接指示する役職
大目付・・・・「惣目付(そうめつけ)」とも称される職務で、藩内の全家臣達を監視・監督する役職の長官である。
大目付格・・・同上の役職に準ずる存在となる。
大番頭・・・・城内での警備や、藩主の参勤交代の時等には警護をすることを専門とする役目である。
寺社奉行・・・ 領内の各寺院や神社の領地を監察し、僧侶・神職達の取締りも行っていた。
御勘定奉行・・領内からの収税を行い、金銭の出納、穀物の出入も担当していた。
御小姓與番頭(おこしょうぐみばんがしら)・・・下級武士達を統括・監視し、何かあれば指揮官となる存在である。
当番頭・・・・城内に「宿直」して警備にあたる者達の責任者である。
御側御用人・・藩士の中でも、有能な者が選ばて着任する役目で、藩主の「お相手役」とも称された。
表御用人・・・藩主が政務にあたる場所を「表(おもて)」と称し、その部屋に仕える重職の者のこと。
町奉行・・・・城下の町政を管轄し、司法・行政・警察・裁判所等の権限を有していた。
御側役・・・・藩主の身辺の世話をすることを役目としていた。
江戸御留守居・・・常に江戸にいて、別名を「城使(しろづかい)」とも称される、藩の外交官である。
京大坂御留守居・・・・同上の役目で、朝廷のある京と、商いの中心である大坂にも、この役目の者がいた。
御納戸奉行・・・ 藩主の衣服・家具等の調度品を調達したり、管理する部局の長官である。
物頭・・・・足軽を統率する責任者で、「足軽大将」とも称されている。
御船(おふな)奉行・・・・元来は海賊であったが、水軍と変化して、海上運送を専門とする部門の長官である。
御使番・・・藩主の命令・指示事項を、「お使役」として家中に伝達する役割。御小納戸頭取
・・・・藩主の食事の「毒味(どくみ)」や配膳をした上で、小姓に渡す役で、給仕は小姓が担当した。
御広敷用人・・・・正室や側室の住む「奥」と、外部とを取り次ぎする部局である。
教授・・・・藩校である「造士館」の「訓導師」と称される教育指導者のこと。
御祐筆頭・・藩主から指示された文書や、政務上の書類を作成する専門部局の責任者である。

●「用人が命令する役職」
「用人」とは、日常的に藩主の近辺にいて、細々とした雑用をこなす役目を果たしていた。
作事奉行・・城内や江戸屋敷等の造営や修理を行う、土木関係全般を担当する部局の長官である。

以上、1.項及び2.項と示したように、薩摩藩は大藩であるが故に、身分の上下関係と役職の上下関係等とが複雑にからみあって、多数の武士達が城内外のそれぞれの部局で日夜働いていたものであろう、と推察される。大藩は大藩なりの多人数を必要としていたであろうし、一・二万石の極小藩においても、役名や役職の地位に相違はあるものの、小規模ながらもほぼ同様な組織形態を必要としていたのである。

まとめ

NHK大河ドラマ「西郷どん」では、西郷隆盛がいよいよ江戸に出て、島津斉彬の信任を得て出世の階段を昇り始める段階に入り、時代の潮流に呑みこまれる門口にさしかかっている。徳川幕府内での薩摩藩の位置が刻々と変動していく中にあって、西郷隆盛の立場も右・左と流動する様は、大河ドラマを見ている者にとっては、誠に面白いものでもある。
このような西郷隆盛を、これから、原作者の林真理子氏と脚色者の中園ミホ氏がどのように物語として描こうとしていくのか、ますます興味が湧いてくるのではなかろうか。期待するところが大である。

参考文献

次回予告

平成30年4月9(月)午前9時30分~
平成30年NHK大河ドラマ「西郷どん」に因んでメインテーマ「明治という新時代の創設について」「薩摩藩と琉球」について

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